星野耳鼻咽喉科睡眠呼吸センター
兵庫県西宮市田中町3-1
エイヴィスプラザ総合医療フロア
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雑誌JOHNS 2003年11月号 執筆 星野忠彦より引用
脂質異常症とは血液中に含まれる脂質が過剰、もしくは不足している状態を指す。 血液中の脂質(脂肪)には中性脂肪(トリグリセライド)、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類ある。 血液中では脂質は血液には溶けずに遊離脂肪酸はアルブミンという蛋白の容器に入れられて、その他は5種類のリポ蛋白という容器に様々な割合で同梱されて合成、配送、代謝、回収される。
リポ蛋白はリン脂質、遊離コレステロールやアポ蛋白などから構成され中性脂肪の多い順番に小腸から中性脂肪を各臓器に送るカイロミクロン、ならびに肝臓で産生された中性脂肪を各臓器に送るVLDL,VLDLからLDLへ中性脂肪を抜き取られ移行途中のIDL、コレステロールが豊富でそのコレステロールを血管などに蓄積させるLDLがあり、細胞や血管のコレステロールを肝臓に回収するHDLがある。
HDLはLDL、VLDLとも中性脂肪、コレステロールの交換を行い最終的に肝臓へ運ばれる(図1)。この際重要な酵素がCETPである。採血して調べた総コレステロールや中性脂肪の値は各種リポ蛋白に含まれるそれぞれの脂質の合計を表している。
3大栄養素である炭水化物・たんぱく質・脂質すべてからアセチルCoA,マロニル-CoA、脂肪酸合成の律速酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼを経由して脂肪酸、更には中性脂肪(トリグリセリド)が作られ、又アセチルCoAからHMG-CoA還元酵素の存在下(この酵素を阻害する薬物がメバロチンなどで有名なスタチン系の薬剤)にコレステロールも産生される。
生体内で産生されたトリグリセリドはVLDLによって脂肪細胞や骨格筋などの各組織へ運搬される。
内臓脂肪などにおいて過剰に蓄積したトリグリセリドは脂肪酸、グリセロールに分解され、その脂肪酸は、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ I (CPT1)によってミトコンドリアへ輸送され、β酸化される。
マロニル-CoAは、CPT-1活性を抑制し、脂肪酸分解(脂肪酸のβ-酸化)を抑制する。インスリンは、脂肪組織の脂肪細胞内に存在し、脂肪細胞内の中性脂肪を、脂肪酸とグリセロールに加水分解するホルモン感受性リパーゼの作用を抑制する方向に作用する。
脂質代謝から見てインスリン抵抗性とは、脂肪細胞が更にエネルギーとして脂肪酸を蓄えることが出来ない状態である。脂肪細胞でのインスリン抵抗性により脂肪組織でトリグリセリド(中性脂肪)が分解されて、遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールが、血中に遊離され、門脈を介して遊離脂肪酸を肝臓に過剰供給する。肝臓においてもインスリン抵抗性は存在し、脂肪酸を十分保持できないため、過剰な遊離脂肪酸はトリグリセリドの合成を促進し、再度VLDLとして血中へ分泌してしまう。更にリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性も低下し、VLDLが異化されないことともあり高VLDL血症になる。その際に分泌されるVLDLは、通常より粒子サイズも大きく、トリグリセライドを多く含有しさらにアポC-IIIを多く含み、アポB-100やアポEのLDL受容体親和性、アポC-IIのリポ蛋白リパーゼ(LPL)に対する親和性を阻害するためVLDLは血中に長く存在することになる。血液中トリグリセライド値が上昇する。
トリグリセライドを多く含有するVLDLが血中に長く存在すると、CETPによりVLDL中のトリグリセライドとLDL中のコレステロール・エステルの交換が起こる。CETPを介してLDLにトリグリセライドが負荷されると、LDLはLPLや肝性リパーゼの水解を受け小型化しSmall Dense LDL(sd-LDL)となる。 同時にVLDLとHDLとの間でもCETPを介しコレステロール・エステルとトリグリセライドとの交換もおき、HDLの代謝が亢進してHDLは異化小型化する。
HDLはさらに小型化するとリポ蛋白の表面に保有していたアポA-IがHDLから離れ、アポA-Iの腎からの排出がおこる。その結果アポA-Iの減少のためHDLを新生出来なくなり、HDLの減少がもたらされる。
VLDLがトリグリセリドを失いコレステロールの比率が増えLDLに変質していく中間段階は、カイロミクロンがトリグリセリドを失うものとあわせて、レムナント(残りかす)リポ蛋白といわれる。
脂肪細胞でのインスリン抵抗性により高TG血症・低HDLch血症、sd- LDLの発生が引き起こされる。
脂質異常症(高脂血症)は、基本的に動脈硬化の関連で捉えられている。
心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を引き起こす大きな要因としてコレステロールがあり、LDLコレステロール(酸化LDL)を下げることが動脈硬化の予防になることが明らかになっている。そして、コレステロールの中でも注目されているのが超悪玉のSmall Dense LDL(s-LDL)である。s-LDLは悪玉と呼ばれる正常粒子径のLDLと比べても、より小さいために血管に入り込みやすく、血中により長く留まり直接動脈に接する時間が長くなり、より酸化されやすい粒子であるため超悪玉と呼ばれている。
正常径のLDLよりも動脈硬化や心筋梗塞をより高い確率で引き起こす。LDL, s-LDL、レムナントが血中において増加すると、内皮細胞下へ入りこむ。
内皮細胞において産生される活性酸素(スーパーオキシドなど)によってLDLは酸化され、酸化LDLとなる。LDLを構成するコレステロール、リン脂質、脂肪酸、アポ蛋白(アポB-100)などが、酸化的変性を受ける。
酸化LDLが多くなると、単球が内皮細胞下へ侵入して活性化し、マクロファージとなる。マクロファージはこれをスカベンジャー抗体を介して無制限に取り込む。こうやってふっくらと膨らんだマクロファージが泡沫細胞である。但しレムナントは、酸化されなくても、マクロファージを泡沫化させるといわれている。
コレステロールの豊富な泡沫細胞はその数も増え、内皮細胞下は膨らむ。この膨らんだ部位をプラークという。血中LDL, レムナント、s-LDLが増加すると、上記の一連の過程によってプラーク部位が増加する。これを粥状動脈硬化という。
OSASにより眠気、高血圧、心血管系等の障害が起こるが、すべての患者に認められるわけではない。
何故OSASの患者で合併症の発現率に差があるのか? 最近の研究では夜間の間歇的な上気道閉塞による分子生物学的な変化の固体差が理由に挙げられている。分子生物学的な変化はOSASの発見、重症度、OSASによる症状の個人差を確認する手立てとなるかもしれないと考えられている。
一般的に耳鼻咽喉科臨床ではOSASの無呼吸低呼吸(イベント)をなくすことが最終目標のようになっているがOSAS治療の本来の最終目標のひとつは呼吸生理学的な異常が原因で発生した分子生物学的な異常による心血管系障害を未然に防ぐもしくは進展を防ぐことであるはずである。分子生物学的異常サインの病態とOSAS合併症との関係を理解することは非常に重要でもある。残念ながらこの方面の研究はいまだ耳鼻咽喉科領域外でも完全ではない。
周期的な上気道狭窄及び閉塞は酸化ストレスとなりpro-inflammatory cytokines, chemokines adhesion moleculesを分泌させ血管内皮障害さらには動脈硬化atherosclerosisを引き起こし、心血管系障害に至らしめることは間違いないようである。残念ながら脂質をこの病態のbiomarkerとした研究は少ない。 ところで肥満は間違いなく脂質異常を引き起こす。
その肥満とOSASとの因果関係についての報告は多々ある。最近の報告ではOSASと男性型肥満が共存する場合には酸化ストレス、全身の炎症、血管内皮障害に対する寄与度はOSASが上位に位置すると報告された1)。
即ちOSASも肥満も共に脂質異常、インスリン抵抗性、高血圧、動脈硬化を引き起こすが治療優先度はOSASによる酸化ストレス、睡眠の断片化が肥満の上位にあると考えると治療作戦が立てやすい。
OSASは反復性の上気道狭窄、閉塞によって起こり、慢性的な低酸素と再酸素化の繰り返しである。これは虚血再還流時の低酸素と再酸素化の繰り返しと同じであると考えられ、活性酸素種の産生増加ひいては酸化ストレスの増大につながる。実際にOSASによる酸化ストレスが心血管系障害に深く関与することが報告されている。
OSASでは酸化ストレスが発生しHIF-1、NFκ‐Bなどの転写因子活性が高まり基本的にはここから様々な分子生物学的異常が発生増加、最終的に脂質異常、心血管障害が引き起こされると考えると理解しやすい。従ってOSASによって起こる症状は全身性炎症であり酸化ストレス障害でもある。OSASにおける酸化ストレス亢進とCPAP治療による改善の研究も数多く報告されている2)3)4)5)6)。
動物では慢性の間歇性低酸素によりHIF-1(hypoxia-inducible factor-1)が活性化され交感神経が亢進し(高血圧)、中性脂肪が増える可能性が指摘されている7)。HIFによって発現制御を受ける遺伝子として、血管内皮増殖因子(VEGF)などがある。 又OSASによる活性酸素種の増加はNFκBの活性を促す。NFκBは生体防御および慢性炎症性疾患において重要な役割を果たす多重サブユニット転写因子で、至るところに存在している。NFκBは酸化ストレス、分裂促進因子、病原体、炎症性サイトカイン、免疫刺激およびアポトーシス媒介因子のような一連の誘導因子により活性化されることが知られている。
炎症性転写因子NFκ‐Bが一度活性化されると、サイトカイン、ケモカイン、炎症性酵素、接着分子のような炎症性および免疫性遺伝子のプロモーター領域の認識分子に結合し downstreamにTNF-α、IL-6 、ICAM-1、VCAM-1,COX、Lipoprotein-associated phospholipase A2 (Lp-PLA2)などが活性化される。それらによるOSASの病態および治療についてはたくさんの報告がある。
これ等炎症性サイトカインやadhesion moleculeはメタボリックシンドローム、肥満でも異常高値となることが報告されている。一方OSASにおける上記異常高値、産生異常は肥満の因子を除外してもほぼ独立して存在することが明らかになっている。
OSASでは血液中の中性脂肪、LDL, 酸化LDL,HDLの低下などが報告されている8)9)10)11)12)13)14)。又CPAP治療により異常値の改善の報告もある。そのひとつの原因としてOSASで増加するTNF-αが挙げられる。
TNF-αによりインスリン抵抗性(高TG血症・低HDLch血症、、Small Dense LD-前述)を招き、耐糖能異常を来たさせ、糖尿病の発症にも関連する。更に原因としてLPL不活性も考えられている。動物実験においては慢性の間歇的酸素低下が脂肪組織のangioprotein-like protein4-(強力なLPLinhibitor)を増加させLPL不活性 することが確認された。
即ちVLDL,カイロミクロンが血中に長くとどまるため血液中の中性脂肪血症が高値になる。
VLDL, カイロミクロンから中性脂肪が脂肪組織にとりこまれず、これ等が長く血液中に存在しトリグリセライドリッチプロテインとして粥状硬化、ひいては心血管障害を引き起こすと考えられている。 OSASではLDL上の脂質過酸化反応(Lipid peroxidation)の増加があり心血管系の異常につながりCPAP治療で改善されるとの報告もある15)。
リポ蛋白では、LDLが、最も多く過酸化脂質を含んでいる(LDLに含まれる、コレステロ-ルエステルやリン脂質や中性脂肪の不飽和脂肪酸が、酸化して、過酸化脂質になっている)。VLDL、カイロミクロンの停滞は超悪玉small dense lipoproteinの増加を引き起こす可能性 も指摘されている16)。
即ちOSASにおける酸化ストレス状態はVLDL, カイロミクロン、LDL、酸化LDLなどの増加をもたらし粥状動脈硬化の基盤、心血管系の危険因子となる。インスリン抵抗性の際の脂質異常に極めて近似している。 なお、酸化LDLは血管内皮細胞で産生される一酸化窒素(NO-血管拡張を促し血小板凝集を抑制する)の産生を、低下させるNOはOSASでも論文に良く取り上げられている。
酸化LDLが、血管内皮細胞からのNO産生と機能を低下させるため、NOによる血管拡張が傷害され、血小板凝集の抑制作用が減弱し、血栓が形成されやすくなる17)。
WAT(white adipose tissue)は様々な機能を持った50種以上のアデイポカインを産生する最大のホルモン臓器でありる。肥満状態では成熟脂肪細胞肥大化はそれぞれの脂肪細胞間距離を大きくし自ら酸化ストレス、低酸素状態を作るこが一般的に知られている18)19)。
脂肪細胞の低酸素化により脂肪細胞から悪玉アディポカインの放出増加、善玉アディポカイン放出の低下を招く。OSASの間歇性低酸素、酸化ストレス単独で脂肪細胞は直接に影響を受け、各種脂肪酸、アディポカインを放出もしくは分泌の低下が起こる。
肥満(メタボリック症候群)、OSASにおける脂質異常の位置づけは非常に困難を伴うがCT上CPAP治療によるOSASでの内臓脂肪の減少の報告は一つの光明かもしれない20)。 脂質異常と脂肪組織の項に重複するが脂肪細胞が酸化ストレスを受けた際に発生する脂肪細胞の分泌異常について図示した。 図3
これ等炎症性サイトカイン、アディポカイン、更にadhesion moleculeの異常値はOSASに高率に認められCPAP治療などで改善する報告が多い。
メタボリックシンドローム、肥満単独でも異常値となることが報告されている。
OSASにおける上記異常高値、産生異常は肥満の因子を除外しても独立して存在することが明らかになっている。
特にOSASを含む睡眠障害、睡眠の断片化は交感神経系のburstを引き起こし血圧に変化を与える。 繰り返す覚醒はコルチゾール、脂質異常を引き起こす21)。
OSASにおける交感神経系の活動の亢進は 内臓脂肪細胞からの遊離脂肪酸の放出を招きインスリン抵抗性を引き起こす。覚醒反応の増加と抗酸化物質の減少、Lipoprotein-Associated Phospholipase A2 (Lp-PLA2)三者の関係が最近報告されている。
覚醒反応の増加は交感神経の緊張をもたらし、抗酸化物質の減少をもたらすと同時にLp-PLA2の増加を引き起こす。
高いArousal index とこれに相関するLp- PLA2値は睡眠覚醒中に発生する心血管系の障害を予測させる可能性がある22)。Lp- PLA2値は今後OSASのLDL,HDL測定などと共に覚醒反応を念頭におい行うGolden standard PSGがやむ終えず出来ない場合に、OSASの心血管系のリスクを予想する重要なbiomarkerとなりうると思われる。特に日本では携帯型簡易検査が幅広く行われている現状を考えれば尚更である。
一般的にLp-PLA2は LDL ApoB の electronegative domain に付いていて(bound to)、酸化リン脂質を加水分解しリゾホスファチジルコリン、酸化遊離脂肪酸を産生する。生成物は、pro-inflammatory productを産生し、単球を惹きつけ、泡沫細胞形成に寄与し、粥状動脈硬化症の発生および進行を促進すると考えられている。 ちなみにLp-PLA2 量、活性が1SD 増加するごとに冠動脈疾患、ischemic strokeが増加するといわれておりsecretory PLA2 阻害薬 varespladib、Lp- PLA2 阻害薬 Darapladib は治験中であり注目される。 耳鼻咽喉科臨床で非常に頻度の多いアレルギ-性鼻炎による鼻閉等でも夜間の中途覚醒を引き起こす可能性があるが、脂質異常に関する報告はほとんどない。今後の研究が待たれる。2)より改変引用 図4
突発性難聴においては聴神経腫瘍、ウィルス感染などが除外された後にその一因として終末血管によって酸素供給されている蝸牛の虚血、血管障害を考えやすい。しかしながらそれを裏づける確定的な報告は少なく、脂質異常に起因する難聴の病態は今なお明白でない。
突発性難聴には脂質異常及び粥状動脈硬化は病態学的に大きな意味を持たないとする報告がある一方高脂血症を伴う突発性難聴の慢性期や、騒音性難聴で高脂血症がある場合高脂血症の治療が聴力を改善したとの様々な報告がある23)-29)。 しかし酸化ストレスに伴う全身炎症の結果、脂質異常も合併し全身の血管系に影響を与えるOSASで中枢性聴力障害が報告されていることは興味深い30)-31)。
めまいと脂質異常との関連では中枢性めまいが重要である。特に椎骨動脈系の血流障害を引き起こすリスクファクターである脂質異常は高齢であり、高血圧、糖尿病を持つ患者では念頭におく必要がある。
問診により脂質異常の有無が明らかでない場合は脂質異常、糖尿病、高血圧などで発生助長される頚動脈の硬化性病変の有無を確認できる頚部超音波検査は有用であると思われる。 脂質異常、さらには中枢性めまい診断を補助出来る可能性がある。
椎骨動脈の超音波診断には少し熟練を要するかもしれない。 椎骨動脈系(前下小脳動脈,後下小脳動脈)に生ずる粥状硬化による限局性の小梗塞の場合には回転性めまいと突発性難聴を示したり、めまい以外の症状が乏しく前庭神経炎と類似の症状を示すことがある。
突発性難聴、前庭神経炎と思われる症例で中枢性も疑われる場合には頚動脈エコー、MRIも一度はチェックしておく必要がある。
顕性および潜在性甲状腺機能低下(図5)ではLDL受容体活性が低下しLDL、IDLコレステロールの取り込みが減少して血中LDL,IDLコレステロールが増加する。
CETPの活性も低下しVLDL,IDL,LDLからの中性脂肪の引抜、HDL2からVLDL,IDL,LDLへのコレステロールの転送が傷害され血中の中性脂肪が増加し、HDL2コレステロールが増加する。またCETP活性の減弱はHDL3の減少を引き起こし末梢細胞内からのコレステロールの逆輸送が低下する。酸化LDLも当然増加する32)。図5
顕在性甲状腺機能低下、及び潜在性甲状腺機能低下があり脂質異常がある場合は甲状腺ホルモン補充療法が優先される。潜在性甲状腺機能低下症の頻度は世界中の研究報告からすると、1~10%である。この状態の時には少なくとも脂質異常があるかどうかは調べておかなければならない。
甲状腺機能低下はOSASを引き起こすがそのメカニズムの詳細は今なお不明である。一方OSASは潜在的にも脂質異常を合併する性質を持っている。
甲状腺機能低下、OSAS、脂質異常を同時合併したときにはそのメカニズム、病態に関しては未だ解決されていない問題が多すぎる。潜在性甲状腺機能低下と高コレステロール血症に関してはおおむねTSH>10mIu/Lで補充療法の有無の検討が行われているが世界で一致を見ているわけではない33)。
頭頚部癌で放射線治療を受け甲状腺機能低下が発生し高脂血症が引き起こされる可能性も指摘されている34)。頸部放射線照射中あるいは照射歴のある患者において,コレステロール値測定は甲状腺機能低下症発見と甲状腺ホルモン補充療法における補助的指標として有用性が高いことが明らかにされている。
Ⅳ脂質異常と超音波診断 複数のprospective studyから頸動脈IMTが心血管イベントの予測因子となりうることが示唆されている。頸動脈IMTが血圧、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、血糖とも相関しHDLコレステロールとは逆相関するたくさんの報告がある35)。
頚動脈、椎骨動脈、甲状腺エコーの理論手技実際に関しては成書を参考にされたい。
OSASでは心血管系疾患がない場合でも酸素飽和度低下の程度は頚動脈粥状硬化のpredictorであるといわれている。また動脈硬化の程度は血圧に関係なく酸素飽和度低下の程度と相関することが報告された36)37)。
CPAP治療により頚動脈硬化の改善も期待されている。
頚動脈超音波検査で頚動脈硬化があれば脂質異常の存在を、他の動脈硬化因子(糖尿病、高血圧など)も考慮に入れて疑ってみる必要がある。
頚動脈硬化の存在の有無はOSASの治療の選択の指標にもなり、著しい肥厚狭窄などがあればCPAP治療前に内科医に心血管系の疾患を再度確認すべきである。必要に応じて著者は甲状腺のエコーレベル、体積測定なども行っている39)。
最近いびきと眠気を覚え来院。3年前から糖尿病にて近医で内服治療。HbA1cも正常であった。 その後高脂血症を検診にて指摘。鼾はかくが日中傾眠なく過ごしていた。
家族に鼾がうるさいといわれ、受診した。初診時、問診上心血管系の症状は無く安静時心電図も正常であった。BMIも24.1で舌骨―下顎骨下縁間距離を測定し中等度以上のOSAS思われた。 視診触診後、頚動脈エコーを試行。著しいIMTの肥厚とプラークを認めたため、簡易検査のオーダーと同時に兵庫医大循環器紹介。運動負荷心電図にてⅡ、Ⅲ、aVf, V4-V6にてST低下を認め無症候性心筋虚血疑いにて冠動脈造影検査。右冠動脈99%、左冠動脈回旋枝完全閉塞が認められ後日Cypher、POBAとなり再狭窄を認めず毎月一回CPAP治療のために受診していただいている。
本症例では高脂血症、中等度以上のOSAS、頚動脈の高度なプラークの存在があれば、心血管系の異常を訴えなくても心血管障害が少なからず存在することを小生に示してくれた貴重な症例であった。
心血管系、脂質異常を含め代謝異常の既往のある高齢者のめまい、耳鳴り、難聴も 頚動脈硬化IMTの異常があればMRAなど試行すべく他科紹介が望まれる。
耳鼻咽喉科疾患と脂質異常を考える上で必要な関連項目はインスリン抵抗性と脂質異常、脂肪細胞と脂質異常、甲状腺ホルモンと脂質代謝、活性酸素と脂質異常、脂質異常と動脈硬化、頚動脈、甲状腺の超音波診断である。
現在のところ脂質異常を引き起こす、もしくは脂質異常が原因となる耳鼻咽喉科疾患は、OSAS、甲状腺機能低下症、突発性難聴、中枢性めまいである。
休診日:土曜午後・日祝祭日
※午後の窓口での受付は6時30まで
※金曜・土曜は、院長 星野哲朗、
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